令和5年度 卒業式 答辞
2024-03-04
卒業生 答辞
答辞
通学時の駅から乗る、自転車で感じる冷たい風の中にも、暖かさを感じる季節となりました。四季の移り変わりを自転車で感じるのも、今日で最後です。
この佳き日に、ご来賓の皆様、校長先生をはじめ諸先生方、ご家族の皆様、沢山の方に見守られて、私たち卒業生244名が、このように厳かに卒業式を迎えられましたことを、心より感謝申し上げます。同時に、私たちがこの式を迎えている同じ空の下、日常生活を取り戻そうと必死に歩んでいる高校3年生がいることも、忘れたくないと思います。元旦の能登半島地震では、多くの方が当たり前の生活を奪われました。犠牲となられた方へ、謹んでお悔やみ申し上げますと共に、未だ困難な避難生活を送られている方々がいらっしゃることを思うと、胸が痛みます。
8年前、私たちも熊本地震で同じような経験をし、「当たり前」のことが、いかにありがたいものかを実感しました。この3年間の高校生活の中でも、その当たり前のありがたさを、何度も実感しました。
みんなと授業を受けることができる。
みんなと部活動に集中できる。
みんなで学校行事を楽しむことができる。
私たちの中学校生活は、新型コロナウイルスの影響で、色々なことに制限がありました。消毒の徹底や黙食が「当たり前」となり、友人の顔をマスク越しでしか見ることがなく、沢山の行事が中止となった3年間。高校入学後も、またあの生活が続くのかと、ここにいる誰もが不安に思っていたと思います。しかし、1年生の頃から、学年別の体育祭や文化祭、本来であれば中止になってもおかしくなかった修学旅行も、私たちは経験することができました。それは、 学年主任である松本先生をはじめ、沢山の先生方の「思い出を作ってあげたい」という私たちへの愛情だったと思います。
この熊本中央高校で、私はかけがえのない友人、かけがえのない先生に出会い、沢山の愛情の中で3年間を過ごすことができました。
普段から勉強を教えてくれ、検定取得のために土日も学校に来て勉強し、就職試験・大学受験に合格した時に、自分のことのように喜んでくれる総合ビジネス科のクラスメイト。
階段を上がれば、廊下や教室で毎日勉強に励んでいた特進コース。
文化祭や発表会のため日頃から練習や作品づくりに取り組んでいた芸術創造コース。
外部との交流を深め、自分たちの能力や知識を高めてきた総合探究コース。
実習に行き、家に帰ってからもレポートを書いていた福祉リビングコース。
看護師になるために、白衣に身を包んで長い実習に臨んでいた看護科。
3年間、きついことも喜びも分かち合ってきたソフトテニス部の仲間には、特に感謝の気持ちでいっぱいです。ぶつかることも多く、たくさん迷惑をかけましたが、それでも最後まで共に戦ってくれました。父を失って何も手につかず、ずっと泣いていた私に寄り添って共に泣いてくれたのも、ソフトテニス部の友人でした。仲間からの応援や励ましの言葉のおかげで私は諦めずに頑張ってこれたのだと思います。この仲間と過ごせて本当に良かった。
それぞれの友人がそれぞれの夢に向かって一生懸命取り組んでいました。私はそんな友人たちを、とても誇りに思います。
そして、勉強、部活動、進路など沢山の相談に乗って下さった先生。
例え授業での関わりがなくても、面接や小論文の練習をしてくださった先生。
進路が決定した時、共に涙して喜んでくれた担任の先生。
時に厳しく、時に優しく、決して私たちを見捨てることなくご指導くださった顧問の先生。
「当たり前」の日常の中に、沢山の愛情があったのだと、この「当たり前」の日々から旅立つ今、改めて実感しています。人は今居る場所から旅立とうとしたり、何かを失ったりした時、それがいかに大切なものだったかを知るのだと思います。
私たちはこの3年間で1人の恩師を亡くし、私は大切な家族を亡くしました。
看護科の担任だった田川先生が亡くなったのは、2年生の時です。1年生の運動会で、リレーの1走を走られたことを、私は鮮明に覚えています。直接教えていただいたことはありませんでしたが、先生の訃報を放送で聞いた時、自分の父と重ね、密かに涙が溢れました。3年生の先生方の動画の中で、下駄箱にまだ田川先生の名前があり、靴が入っていることを知り、私たちは卒業の今日まで見守ってもらっていたのだろうと、胸が熱くなりました。
そして、高校1年生の冬、私は大好きな父を亡くしました。私の1番近くで話を聞いて、いつも味方でいてくれたのは母です。父が単身赴任で家にいない日が長く続き、1人で3人の子どもを育てるのはとても大変だったと思います。それでも母は、毎日一生懸命働いて、私を高校で学ばせてくれ、ソフトテニスを続けさせてくれました。朝早くからお弁当を作って駅まで送り、夜遅く迎えにきて、私と一緒に夜ご飯を食べるために待っていてくれました。そんな中、突然父を失いました。部活動を辞めて、アルバイトをしようかと、母に相談したこともありました。しかし私以上に落ち込んでいたはずの母が、何も心配しなくていい。やりたいことを続けていいと言ってくれました。部活動を続けてこれたこの3年間は、私にとっても、私と母にとっても、私と父にとっても宝物です。高校最後の総体で、団体戦・個人戦と優勝できたことは、母への大きな恩返しになったと思います。それは、小さいときから私のプレーを見て、一緒に練習をして、私にソフトテニスを始めるきっかけを作ってくれた、父への恩返しでもありました。これから共に、同じ空間で喜びを共有することはできませんが、誰よりも私のことを好きでいてくれた父は、近くで応援してくれている母と共に、天国から見守ってくれていると思います。
在校生の皆さん。
熊本中央高校には、共に自分の夢に向かって歩んでいける仲間がいます。愛情を持って接してくれる先生方が、沢山います。家族は必ず味方となって支えてくれます。大切なのは感謝の気持ちを伝え、行動することです。家族だけでなく友人や恩師、大切な人は明日もそばにいてくれるとは限りません。いなくなってから気付いても意味がないのだと、私は心の底から言えます。伝えられる気持ちは全て伝える。伝えてくれる想いは、大切に受け止める。遠くても会いに行けるなら会いに行く。近くにいるなら少しでも話す。自分が大切に思う人、自分を大切に思ってくれる人との時間を決して、無駄にしないでください。「当たり前」の日常を、大切に過ごして欲しいと思います。
本日、私たち卒業生一同はたくさんの愛情を受けた熊本中央高校から旅立ちます。この熊本中央高校で、当たり前の大切さを学べたからこそ、思いやりや愛情を持って人に接し、何事にも素直に取り組むことを、ここにお約束します。
先生、3年間本当にありがとうございました。先生の情熱を忘れることなく、周りへの感謝の気持ちを胸に自分の足で一歩一歩歩んでいきます。
お父さん・お母さん、これから先も心配をおかけすると思いますが、2人の誇りとなれるように常に努力し続ける人になります。
120年間の歴史の1ページが、今ここで閉じられます。そして新たなページが、在校生によって拓かれていくはずです。どんな物語が始まっていくのか、卒業生として楽しみに、応援していきたいと思います。
名残は尽きませんが、熊本中央高校の益々の発展と、ここにご臨席頂いている全ての方々の健康とご多幸を心から祈念し、答辞とさせて頂きます。
令和6年3月1日
卒業生総代 坂中彩乃